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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
――といっても、人浪に揉まれるし、後から急がれるし、肝腎な信長の顔もすがたも見えはしなかった。ただ、
「あれが三位信忠卿」
「今、向うへ行かれたのが、織田源五様」
「こちらを見て、笑っていらっしゃるのが、北畠中将信雄卿ではないか」
などとせめて一門の歴々を、遠くから望む程度で満足し合っていた。
いや、一般の者が、満足もこえて、感激にひれ伏したのは、はからずも、この安土城のうちにかつてありとも聞いていなかった「御幸の間」を、この日、拝観したことであった。
安土に「御幸の間」があろうとは、一般には、きょうまで、思いも及ばなかったことである。
いつかは、主上の行幸をここに仰いでと、人知れず忠誠を心がけていた信長の用意を今知るとともに、人々は、
「こうして、恭しくも、至尊の玉座を眼のあたりに拝観するとは、一生の思い出。ありがたい極み」
と、ここへ来ると自然、雑鬧の人波もみな自発的にひそまり返って、階の下、廊の陰など、思い思いに額ずき合った。
こうして、年賀の群集は、次々に殿中の座敷を見物して歩いた。狩野永徳のふすま絵に佇み、繧繝縁や高麗縁の畳に目をみはり、みがき立てた金壁に気もすくみ、恍惚とした心地で白洲へ降りると、