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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,073 字 · 223 页

青空文庫

妙なことをする、と大和守は思った。酒井忠清ほどの人物が、なんのためにそんなみえすいたことをするのか、と思った。また、甲斐はそれをどう感じているか、と思って見やったのであるが、甲斐も無表情に、おっとり坐っているだけで、どう感じているとも、うかがい知ることはできなかった。

話しは「やわら」という新らしい武術に関するもので、数日まえに、雅楽頭がその技法を見たらしい。演じたのは磯貝次郎左衛門、三浦与次右衛門という浪人者で、従来あった柔術小具足に新たな技法をとりいれた、精緻巧妙な武術だという。これはその二人が、明国から亡命して来た陳元贇という者について、かの国に伝わる捕捉術をまなび、それにくふうを加えたものだ、ということであった。二本の指で相手の眼をつぶし、鼻柱を砕き、額の骨を割る、とか、瓦十枚を手がたなで粉砕したり、拳で五寸釘を柱へ打ちこんだり、いろいろと珍らしい技を演じてみせたようである。また、陳元贇は三田台町の某寺にいたが、いまでは尾張家が扶持しているらしい、などとも云った。

大和守は五十五歳であった。その座ではいちばん年長であるし、ながいこと将軍の側用人を勤め、まえの年に若年寄となって、「当代十善人の一人」