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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

の呼吸の下に生きている人間がこのT市だけで十万人もあるのです。その十万人は殆んど全部、夜のT市に棲息しているといってよろしい人種です。彼等にとっては、白昼のT市は、自分とはまるで関係のない世界なのです。夜のT市こそ自分等の本当の世界だと思っています。つまり彼等のT市に市長がいなくなったも同然です。その心配するのも無理ないです」

そういって速水輪太郎は僕を窘めた。

「そんなものかなア……」

「貴方なんぞに分らないも無理はないと思いますがねえ」と速水は薄気味わるい笑みを浮べた。速水が笑うのを見たのはこの時が始めてだったが、それはあまりにも無気味なもので、見ないに越したことはない種類のものだった。「で……、結局僕は一同の依頼をうけて、貴方のお帰りを待っていたのです。貴方は今夜『深夜の市長』と一緒に出掛けられた筈です。一体何時頃、何処で『深夜の市長』と別れたのですか」

「それは……目黒駅の前ですよ。時刻は午後八時十分ぐらい前だったと思いますよ。円タクの運転手が声をかけて、『川の向うでお探し申していました』なんていっていたが……」

と、僕は知っている通りのことを話した。