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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
「ほほう、そいつは意味深な唄だネ。もっと子供らしいのはないのかなア」
「こんなのはどう?……鼻をつまんでニヤリと笑うウ、お前は深夜のオ市長さん、夜が明けるヨイショコショ、もうお帰りかア……」
「うん、それもおじさんにゃ深刻に響くよ。……ねえ、絹坊一体お前の、お父ちゃんは無いのかい」
「お父ちゃんは一人いるんだってよ。でもあたいはお父ちゃんの名前は知らないの。だって母アちゃんが教えて呉れないんだもの」
「お前はそのお父ちゃんという人を見たことがあるのかい」
「一度ちょっとだけ見たことがあるわ。お料理店の黒い門から出て来て自動車に乗っていっちまったの」
「どんな顔をしていたい」
「どんな顔?……あたし覚えてないわ」
「それっきりで見たことがないのかい。会いに行ったことなんかないのかネ」
「それはねエ、お母ちゃんが一緒に会いにゆこうといってあたいを引張ってゆくことはあるんだけれど、いつも途中までいって停めにしちゃうのよ。だからあたしつまらないわ。そして帰りにお母ちゃんはいつもあの唄を歌うのよ。この子を生んだア……って」
「ああ、あの唄をネ。……」僕はなんだか恐ろしくなった。