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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
僕は真夜中に、こんな素晴らしい天使を拾ったのですからねえ。だが今夜始めてだという話ですが、貴女のような立派な風采をした方が、どうしてこんな商売を始めたんです。それを聞かして下さると、僕の方はお銭をさしあげるだけの材料を得たことになります」
「……あたしは性格破産者なのです。兄の家にいましたが、兄は馬鹿正直なくらい昔風な一徹な性質で、新しい生活様式に憧れる妹とは何ごとにつけても合うはずがありません。だからあたくしが兄の家を飛びだしたのは当り前でした」といって女は俄かに昂奮の色を示し、「……始めは自分の腕で、立派に独立してゆけるつもりでした。少くとも最初のうちはあたくしの思ったとおりでした。あたしは外国人の商館で、タイピストになって働きました。家出をしたことを知ったお友達――女友達も男友達も――みな万歳を云ってくれましたの。あたくしはたいへんな人気者だったのです。その素晴らしい人気が、あたくしをウンと幸福の雲の峰へ担ぎあげてくれると信じていたのです。しかしそれは大変な思い違いでした。あたくしは全く反対の夢を見ていたのです。兄と喧嘩をして出たあたくしですが、貞操のことについては、伝統といえるでしょうが堅い観念をもっていたあたくしでした。