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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
どうも自然に出た咳ではなさそうだ。
やがて社長の品川氏が現われた。警部は彼の表情から何事かを読取ろうと、目をこらしたが、品川氏はただにこやかに微笑しているばかりだ。決して心に秘密を持つ人の顔ではない。
警部が昨夜の顛末を手短に物語ると、品川氏は忽ち笑いを納めて、震え声になった。
「とうとう現われましたか。相棒がそんな危険分子だとすると、今度は又何か、ひどく大がかりな悪企みを始めたんじゃありますまいか」
だが、彼はただ驚き恐れるばかりで、彼自身の昨夜のアリバイを語ろうとはしない。老練な波越氏は、心の中で、
「オヤ、変だぞ、若しこいつが一人二役を勤めている悪人だったら、何はおいても、第一にアリバイの云い訳をする筈だが、そんな気ぶりのないのは、やっぱり明智君の考え過ぎかな」
と思った。で、仕方なくこちらから切り出して、
「昨晩は御宅で御寝みだったのでしょうね」
と尋ねて見た。
「エエ、無論宅で寝みましたが……、アアそうですか。成程成程、私、ウッカリして居りました」
品川氏は一寸不快な顔になって、ツカツカとドアの所へ立って行き、それを開いて編輯所の方へ声をかけた。