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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

邸の表門裏門に見張りのついたことは申すまでもない。

さて、罷業五日目の夕方のことである。

重役会議を終えて帰宅した常右衛門氏は、心配に蒼ざめた家族達の出迎えを受けて、彼の私室に這入って行った。

美しく分けた白髪、身体に比べて大きな赤ら顔、だが連日の心労に、額の皺に痛ましいやつれが見える。

彼は服を着換えることも忘れて、そこの大ソファに、グッタリ身を沈め、小間使の差出す冷い飲物を受けた。

「あなた、御風呂が立って居りますが、のちに遊ばしますか」

夫人も従って来て、気遣わしげに、主人の表情を読む。

「ウン」

常右衛門氏は、生返事をして、何をか考えている。空ろな目はテーブルの上の一通の手紙に注がれたままだ。

夫人も小間使も、手持無沙汰の数秒間。

やがて、常右衛門氏の空ろな目が、ハッと正気に返った様に、鋭い光をたたえる。

「オイ、この手紙は誰が持って来たんだ」

変な型の封筒、見慣れぬ筆蹟、しかもたった一通だけ、テーブルの真中に置いてあるのだ。

「サア、青山じゃございませんかしら」

「青山なら、書斎の方へ持って行く筈だ。それにたった一通というのはおかしい」

宮崎氏は毎配達時間、必ず十数通の手紙を受取る。