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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

殊に此頃は手紙の分量が多い。それがたった一通、書斎でもないこの部屋にあるのは変だ。しかも郵便として配達されたものでない証拠には、切手も消印も見えぬのだ。

手紙を取上げて裏を見ると、果して、差出人の名前がない。宮崎氏は何故かひどく躊躇したあとで、結局それを開封した。そして、中身を一目見るか見ないに、サッと額をくもらせ、喉のつまった様な声で、

「青山は? 青山を呼ぶんだ」

と命じた。

呼ばれた書生の青山は、その手紙については何も知らなかった。青山ばかりではない。夫人も令嬢も召使一同も、今朝掃除を済ませてから、この部屋へ這入ったものは一人もないことが分った。そして、掃除の際に、そんな手紙なぞなかったことは云うまでもない。

宮崎氏がかく穿鑿立てをしたのも無理ではなかった。その手紙の文面は左の様な、非常に不気味なものであったから。

我々の要求は君の娘の生命と引換えだ。明日正午まで待つ。君の職工達に回答を与えよ。無論無条件に彼等の要求を容れるのだ。明日正午が一分でもおくれたら、君の娘の命はないものと思え。如何なる防禦も無効だ。兇手は物理的原則を無視して働くのだ。