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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

足ははだしだし、髪の毛は、さんばらにして、幽霊みたいに顔の前に垂れ下っていた。

普通の娘なら、そんな闖入者を見たら、奥へ逃げ込むか、人を呼ぶかする筈だが、美禰子さんは普通の娘ではなかった。無論最初は恐れを為して、窓をしめようとさえしたけれど、その次の瞬間には、持前の異常な慈悲心が、ムクムクと頭をもたげて来た。

美禰子さんは、乞食娘が近づいて来るのをじっと待構えていた。こんな際に使用する最も慈悲深い言葉を頭の中で探しながら。

乞食は、やがて、窓の下にたどりついて、そこに突立ったまま、ジロジロと令嬢を眺め、見かけによらぬ美しい声で云った。

「お嬢さま、なぜお逃げなさらないのです。怖くはないのですか」

アアこの娘は境遇の為にひがんでいるのだ。それであんな皮肉な云い方をするのだ。と令嬢は心の中で考えた。そこで、出来る丈けやさしい声で、先ず、

「お前、どこから這入っておいでなの」

と尋ねて見た。

「門から……、だって、寝る所がなければどんなとこだって構ってはいられませんわ。あたし、昨夜は、お庭の隅の物置小屋で寝たんです」

案外上品な言葉を使っている。この娘は生れつきの乞食ではないらしいぞ。