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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
と又令嬢は考えた。
「お腹がすいているのでしょう。で、誰か身寄りのものはありませんの。お父さんとかお母さんとか」
「なんにもありません。みなし子です。そして、お腹の方はおっしゃる通りペコペコですわ」
「じゃ、人に知れるといけませんから、この窓から這入っていらっしゃい。今あたしが、何かたべるものを探して来て上げますわ」
「誰も来やしませんか」
「大丈夫、この家には、今あたし一人で、あとは召使のものばかりですから」
これは事実であった。父伯爵は首相官邸にいるのだし、秘書も、三太夫も、皆んなその方へ行って、令嬢の慈善行為をさまたげる様な手ごわい召使は一人もいないのだ。令嬢自身も、いつもは官邸の方にいて、お父さまの身のまわりなど気をつけていて上げる分相応の役目を持っていた。
暫くすると、どこから探し出して来たのか、美禰子さんは、ビスケットの鑵とお茶の道具を持って帰って来ると、乞食娘を、汚いとも思わず、立派な椅子にかけさせ、その前のテーブルに、ビスケットの鑵を置いて、奇怪千万なお茶の会を開いたのである。
乞食はよっぽど腹が減っていたと見えて、早速ビスケットを五つ六つ一かたまりに頬張ったが、その時、額に垂れ下っていた髪の毛を、うるさそうに掻き上げたので、初めて彼女の顔がハッキリ眺められた。