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ふくおうじでん
福翁自伝
福沢 諭吉
02 福翁自伝
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,912 字 · 402 页
夫れから途中で水が乏しくなったので布哇に寄るか寄らぬかと云う説が起た。辛抱して行けば布哇に寄らないでも間に合うであろうが、極用心をすれば寄港して水を取て行く、如何しようかと云うが、遂に布哇に寄らずに桑港に直航と斯う決定して、夫れから水の倹約だ。何でも飲むより外は一切水を使うことはならぬと云うことになった。所でその時に大に人を感激せしめた事がある、と云うのは船中に亜米利加の水夫が四、五人居ましたその水夫等が、動もすると水を使うので、甲比丹ブルックに、どうも水夫が水を使うて困ると云たら甲比丹の云うには、水を使うたら直に鉄砲で撃殺して呉れ、是れは共同の敵じゃから説諭も要らなければ理由を質問するにも及ばぬ、即刻銃殺して下さいと云う。理屈を云えば、その通りに違いない。夫れから水夫を呼で、水を使えは鉄砲で撃殺すから爾う思えと云うような訳けで水を倹約したから、如何やら斯うやら水の尽きると云うことがなくて、同勢合せて九十六人無事に亜米利加に着た。船中の混雑は中々容易ならぬ事で、水夫共は皆筒袖の着物は着て居るけれども穿物は草鞋だ。草鞋が何百何千足も貯えてあったものと見える。