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ふくおうじでん

福翁自伝

福沢 諭吉

02 福翁自伝

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,912 字 · 402 页

青空文庫

即ち御紋服拝領だ。左まで喜びもしなければ、品物が粗末だと云て苦情も云わず、只難有うございますと云て拝領して、その帰りに屋敷内に国から来て居る亡兄の朋友菅沼孫右衛門と云う人の勤番長屋に何か用があって寄た所が、其処に出入りの呉服屋か知らん古着屋か知らん呉服商人が来て何か話をして居る。ソレを聞て居ると羽織を拵えると云うような様子。夫れから私が、アヽ孫右衛門さん、羽織をお拵えか。「左様さ。「爾うか、羽織には宜い縮緬の売物があるが買いなさらんか。「爾うかソリャ幸いだが、紋所は。「紋所は御紋付だから誰にでも着られる羽織だがドウだ。「ソリャ宜い、爾う云う売物があるなら兎も角も見たいものだ。「買うと云いなされば此処に持て居るこの羽織だがドウだ。「成程御紋付だから差支ない、買おう。就ては此処に呉服屋が来て居るが、価はドウだ。「値は呉服屋に付けて貰えば宜いと云て、夫れからどの位の価かと云たら、単羽織の事だから一両三分だと云う。スグ相談が出来て、その羽織を売て一両三分の金を持て、私は鉄砲洲の中屋敷に帰たことがあると云うような次第で、全体藩の一般の習慣にすれば、拝領の御紋服と云うものはその拝領した年月を系図にまで認めて家の名誉にすると云う位のものなれども、私はその御紋服の羽織を着ても着なくても何ともない。