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ふくおうじでん
福翁自伝
福沢 諭吉
02 福翁自伝
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 209,912 字 · 402 页
新橋から新銭座まで凡そ十丁もある。時刻はハヤ一時過ぎ、然かもその夜は寒い晩で、冬の月が誠に能く照して何となく物凄い。新橋の川岸へ上って大通りを通り、自から新銭座の方へ行くのだから、此方側即ち大通り東側の方を通て四辺を見れば人は唯の一人も居ない。その頃は浪人者が徘徊して、其処にも此処にも毎夜のように辻斬とて容易に人を斬ることがあって、物騒とも何とも云うに云われぬ、夫れから袴の股立を取て進退に都合の好いように趣向して、颯々と歩いて行くと丁度源助町の央あたりと思う、向から一人やって来るその男は大層大きく見えた。実は如何だか知らぬが、大男に見えた。「ソリや来た、どうもこれは逃げた所がおっ付ない。今ならば巡査が居るとか人の家に駈込むとか云うこともあるが、如何して/\騒々しい時だから不意に人の家に入られるものでない、却て戸を閉て仕舞て、出て加勢しようなんと云うものゝないのは分り切てる。「コリャ困た、今から引返すと却て引身になって追駈けられて後から遣られる、寧そ大胆に此方から進むに若かず、進むからには臆病な風を見せると付上るから、衝当るように遣ろうと決心して、今まで私は往来の左の方を通て居たのを、斯う斜に道の真中へ出掛けると、彼方の奴も斜に出て来た。