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だいにのせっぷん

第二の接吻

菊池 寛

「東京朝日新聞」「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1925(大正14)年7月30日~11月4日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,960 字 · 247 页

青空文庫

その部屋は陸に面した部屋だった。やっぱり洋室にこさえたのだが、その後模様がえして中には畳がしいてあり、茶箪笥が置いてあり、押入まで出来ていた。そのとなり、やはり陸に面した部屋は、書斎になっていた。卓の上に、去年の七八月頃の婦人雑誌などがつみ重ねられてあった。

「これ今井さんの奥さまが、読んでいたの。とても、おとなしい美人だったのよ。あなた一度会いやしなかった。」

「いいえ。」

「そうかしら、家へも一二度来たことがあるのよ。」

「そうですか。」

「いい奥さまよ、今井さんなんかに、惜しかったのよ。あんな馬鹿なお坊ちゃんなんかに。」

「まあ!」

「こんな別荘だって惜しいわねぇ。あんな馬鹿息子がこんな財産をつぐのが、今の資本主義制度の弊害ねぇ。」

「まあ!」

倭文子は、京子の顔を思わず見上げた。

「だから、せいぜいわたし達で、使ってやりましょう。こっちへいらっしゃい、とてもいいけしきよ。」

そういって、京子は先に立って廊下へ出た。

「あれが御用邸よ。ほら、海の中に細長い岩が出ているでしょう。あすこの所が御用邸。」

小さい美しい湾は、初夏のかぐわしい日の光の中に、ほのぼのとまどろんでいた。