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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

「…………」

「保養もこれでナカ/\の難行苦行ですと言ったら、松浦さんも同情してくれたよ。この奥の方では謡曲をやる人が毎晩集まるようだが、あれなんかはこんなところへ来ると好い楽みだろうな。松浦さんでは芳子さんがヴァイオリンを弾く。秀子さんが豪い声を出して西洋の歌を唱う。何方も習っていて性質が好いんだそうだが、俺は西洋音楽と来るとラジオで聴いても地震の時と同じ心持になる」

「それは何ういう意味ですか?」

「早く止んでくれゝば宜いと思って待っているばかりさ。冗談に然う言ったら、奥さんが大笑いをしたが、娘さん達は気にかけたのか、もうやらなくなったよ。いやはや、無趣味なものは仕方がない。これといって好きなものがないんだから退屈する」

とガ※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ナーは歎息したが、実はこれまでが前置で、

「いや、唯一つある。それは商売さ」

と来た。これからお説法が始まるのである。二人は覚悟を極めたものゝ、折からの雨が恨めしかった。

「斯うしていても店のことが始終頭にある。寝ても夢に見る。馬鹿な話さ、保養に来ていながら働くことを考えるのが何よりの楽みだ。因業のようだが俺はこれだから兎に角世間並にやって行けるのだと思う。