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がん

雁

森 鴎外

壱、弐、参「スバル 第三年九号」1911(明治44)年9月、肆、伍「スバル 第三年十号」1911(明治44)年10月、陸、漆「スバル 第三年十一号」1911(明治44)年11月、捌、玖「スバル 第三年十二号」1911(明治44)年12月、拾、拾壱「スバル 第四年二号」1912(明治45)年2月、拾弐「スバル 第四年三号」1912(明治45)年3月、拾参、拾肆「スバル 第四年四号」1912(明治45)年4月、拾伍、拾陸「スバル 第四年六号」1912(明治45)年6月、拾漆、拾捌「スバル 第四年七号」1912(明治45)年7月、拾玖「スバル 第四年九号」1912(大正1)年9月、弐拾「スバル 第五年三号」1913(大正2)年3月、弐拾壱「スバル 第五年五号」1913(大正2)年5月、弐拾弐、弐拾参、弐拾肆「雁」籾山書店1915(大正4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 73,950 字 · 147 页

青空文庫

まあ、なんと云う美しい子だろう。不断から自慢に思って、貧しい中にも荒い事をさせずに、身綺麗にさせて置いた積ではあったが、十日ばかり見ずにいるうちに、まるで生れ替って来たようである。どんな忙しい暮らしをしていても、本能のように、肌に垢の附くような事はしていなかった娘ではあるが、意識して体を磨くようになっているきのうきょうに比べて見れば、爺いさんの記憶にあるお玉の姿は、まだ璞のままであった。親が子を見ても、老人が若いものを見ても、美しいものは美しい。そして美しいものが人の心を和げる威力の下には、親だって、老人だって屈せずにはいられない。

わざと黙っている爺いさんは、渋い顔をしている積であったが、不本意ながら、つい気色を和げてしまった。お玉も新らしい境遇に身を委ねた為めに、これまで小さい時から一日も別れていたことのない父親を、逢いたい逢いたいと思いながら、十日も見ずにいたのだから、話そうと思って来た事も、暫くは口に出すことが出来ずに、嬉しげに父親の顔を見ていた。

「もうお膳を下げまして宜しゅうございましょうか」と、女中が勝手から顔を出して、尻上がりの早言に云った。