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がん

雁

森 鴎外

壱、弐、参「スバル 第三年九号」1911(明治44)年9月、肆、伍「スバル 第三年十号」1911(明治44)年10月、陸、漆「スバル 第三年十一号」1911(明治44)年11月、捌、玖「スバル 第三年十二号」1911(明治44)年12月、拾、拾壱「スバル 第四年二号」1912(明治45)年2月、拾弐「スバル 第四年三号」1912(明治45)年3月、拾参、拾肆「スバル 第四年四号」1912(明治45)年4月、拾伍、拾陸「スバル 第四年六号」1912(明治45)年6月、拾漆、拾捌「スバル 第四年七号」1912(明治45)年7月、拾玖「スバル 第四年九号」1912(大正1)年9月、弐拾「スバル 第五年三号」1913(大正2)年3月、弐拾壱「スバル 第五年五号」1913(大正2)年5月、弐拾弐、弐拾参、弐拾肆「雁」籾山書店1915(大正4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 73,950 字 · 147 页

青空文庫

しかしとにかく烈しく夫に打っ附かったって駄目だから、よそうと云うことだけは極めることが出来た。

そこへ末造が這入って来た。お常はわざとらしく取り上げた団扇の柄をいじって黙っている。

「おや。又変な様子をしているな。どうしたのだい」上さんがいつもする「お帰りなさい」と云う挨拶をしないでいても、別に腹は立てない。機嫌が好いからである。

お常は黙っている。衝突を避けようとは思ったが、夫の帰ったのを見ると、悔やしさが込み上げて来て、まるで反抗せずにはいられそうになくなった。

「又何か下だらない事を考えているな。よせよせ」上さんの肩の所に手を掛けて、二三遍ゆさぶって置いて、自分の床に据わった。

「わたしどうしようかと思っていますの。帰ろうと云ったって、帰る内は無し、子供もあるし」

「なんだと。どうしようかと思っている。どうもしなくたって好いじゃないか。天下は太平無事だ」

「それはあなたは太平楽を言っていられますでしょう。わたしさえどうにかなってしまえば好いのだから」

「おかしいなあ。どうにかなるなんて。どうなるにも及ばない。そのままでいれば好い」

「たんと茶にしてお出なさい。