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しんさいこうき

震災後記

喜田 貞吉

「社会史研究 第一〇巻第四号」1923(大正12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,544 字 · 41 页

青空文庫

先年夫に死なれた後に深川で小さい菓子屋を営んで、幼ない二人の子供を養育していたという例の焼き出されの婦人が、その二人の子を連れて大阪の親戚をたよって行くのと乗り合わした。詰襟洋服・巻ゲートル・ゴム底足袋に、登山背嚢一つを背負ったのみの自分ですら乗り降りが容易でないのに、しかも大きな風呂敷包みをいくつかさげたこの人々の痛ましさ。見るに見かねて席の心配をしたり、乗り降りの面倒を見たりしたのであったが、高崎の乗りかえの混雑でついに見失ってしまった。無事に乗れたかしらと、案じながら名古屋まで来てみると、偶然また同じ車室に乗り合わした。何という奇縁であろう。見れば子供は二人とも混雑のさいに帽子を失っている。それでもまず無事に乗れてよかったと、前途の幸運を祝福したことであった。

こんな混雑のさいにも心ない乗客のかなり多いのには浅間しく感ぜざるを得ぬ。篠の井・名古屋間の自分の乗った車室の入口に、ドアを内から締めてそこへ大きなカバンを置き、ゆっくりとそれに腰をかけて何人をも出入させぬ二人の八字鬚の洋服紳士がいる。駅ごとの停車中に外から詰めかけた人々が、いくらドアを押しても叩いても頑として動こうとはせぬ。