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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

春の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页

青空文庫

これ平生食物問題に不注意なるの致す所にあらずや。客の中川は側にありける鶏卵を執りて小皿の上へ割って落し「小山君、よく見給え、玉子を皿の上へ割ってみて黄身がこの通り中高に盛上っていて白身も二段か三段に高くなっているのは新しい証拠だ。こういうのは皮の光らない玉子に限る。皮の光ったのを割ると黄身も白身もダラリとして横に拡がる。それは古い証拠だ。そこでよく見給え、黄身の上に鳥の眼位な円い小さな線があるだろう。俗に黄身の眼というがこれは玉子の胎盤だ。ソラ見えたろう、これだこれだ、奥さん、お分りになりましたか、色が薄いからよく見ないと分りませんよ。この眼が黄身の真中にあって眼の近所に何にもありますまい。こういうのは受精しない玉子です。モー一つ割ってみましょう。オヤ今度も受精しない、今頃の玉子は受精しないのが多いのです。春になると大概は受精しています。今頃の玉子でも一つや二つは受精しているのもありましょう。モー一つ割らせて下さい、ソラ今度こそ受精しています。これは眼の処へ透明ったドロドロのようなものが附着いていてそれが黄身の白い紐と連結してあります。エ、分りませんか。