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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

春の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页

青空文庫

結句この方が嬢の顔を見られて都合好しと大原は強ちに悔まず。席定まるや、下女は西洋皿にパンを載せて出で来り、一々法の如く食卓の上に置く。大原は何の思慮もなし「モシモシ女中さん、御面倒だがね、僕のパンは焼いてトウストにして下さらんか。中川君、僕は何時でもパンを焼かせて食べるよ」と西洋料理屋へ行ったつもり。中川は別に咎めず「そうかね、それならば焼いて進げるがいい。しかしこのパンは昨日製したのだよ、古いから焼かずに出したが新らしければ勿論焼いて進げるさ」と主人の説明を客の小山が不審顔「中川君、古いから焼かぬ、新しければ焼くとはどういう訳だ。僕の家では新しいパンをそのまま食べて古くなったのを焼いて食べるよ」中川「それは大間違、西洋人は新しいパンを胃に毒だといって昨日製したものでなければ食べない。新しいパンは水分が多くって鬆の中へ水分が充ちているから胃中へ入った時胃液が滲入しないで消化が悪い。古いパンは水分が蒸発して鬆の中が乾燥しているから口では唾液を滲入させるし腹では胃液腸液を滲入させるから消化が良い。だから新しいのは焼いて水分を蒸発させる、古ければ焼くに及ばんではないか」