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くいどうらく
食道楽
村井 弦斎
春の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页
口画を披く者は土間の中央に一大ストーブの据られたるを見ん。これ英国より取寄せられたる瓦斯ストーブにて高さ四尺長さ五尺幅弐尺あり、この価弐百五十円なりという。ストーブの傍に大小の大釜両個あり。釜の此方に厨人土間に立ちて壺を棚に載せ、厨人の前方板にて囲いたる中に瓦斯竈三基を置く。中央の置棚に野菜類の堆く籠に盛られたるは同邸の一名物と称せらるる温室仕立の野菜なり。三月に瓜あり、四月に茄子あり、根葉果茎一として食卓の珍ならざるはなし。下働きの女中、給仕役の少女、各その職を執りて事に当る。人も美しく、四辺も清潔なり。この台所に入る者は先ず眉目に明快なるを覚ゆべし。
この台所にては毎日平均五十人前以上の食事を調う。百人二百人の賓客ありても千人二千人の立食を作るも皆なここにて事足るなり。伯爵家にては大概各日位に西洋料理を調えらる。和洋の料理、この設備に拠れば手に応じて成り、また何の不便不足を感ずる所なし。この台所のかくまで便宜に適したるはストーブにも竈にも瓦斯を用いたるがためなり。瓦斯なるために薪炭の置場を要せず、烟突を要せず、鍋釜の底の煤に汚れる憂もなく、急を要する時もマッチ一本にて自在の火力を得べし。