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くいどうらく
食道楽
村井 弦斎
春の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 160,757 字 · 321 页
と頻に頼まれてお登和も拒みかね「それでは宅へ戻って兄に聞いて参りましょう。ある事はちょうど両組揃ったのがございますけれども」と独りで家に帰り行く。大原は父母の出迎いに行く事とて礼義正しく袴を着し羽織を被「小山の奥さん、それでは何分願ます。夜具の事は大丈夫ですかね」妻君「エー大丈夫ですとも。お登和さんの方で御都合が悪ければ損料を借りるともどうともしてお間に合せ申します」大原「それではちょっと往って参りますよ」と家を出でて車にも乗らず、路程もあまり遠からねば例の重き足を曳ずりて停車場へ赴きぬ。着車時間は迫りけれども停車場内寂として急に汽車の着すべき様子も見えず。大原は待合室に入りて人を待つ間の手持無沙汰に独り未来の事を想像する「アア愉快だな、実に愉快だ。御両親が御着き遊ばしたらズーットお車へお乗せ申して家へ着くと直ぐ例の三十六品の料理が更る更る出て来る。御両親もさぞお驚き遊ばすだろう。どうしてこんなに用意が出来た、料理屋からでも取ったのかとおっしゃったら、イイエそうではございません、一つ残らず手製なのでと料理法の説明を申上げる。それでモーお登和嬢の価値は荒増分るだろうが、ともかくもどんな人だか逢ってみたいとおっしゃってそれからお逢わせ申したらさぞお悦びになるだろう。