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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

こうすればどうなると、あらゆる場合が考慮されているのだ。いくら明智が名探偵であっても、こんな相手にかかっては、そう易々と勝利は得られぬ。

魔術師の事を考えていると、いつの間にか頭に浮んで来る二人の女性があった。玉村妙子と賊の娘の文代である。

妙子とはS湖畔のホテルで仲好しになり、今度の事件も、半分は妙子の為に手を染める様になったのだが、彼女との交際では、どちらかと云えば妙子の方から近づいて来た。甘い眼遣い、甘い言葉が、明智を虜にしてしまったのだ。管々しいので一々は書かなかったけれど、事件が起ってからも、彼は度々妙子と二人切りで話をする機会があった。だが、妙なことに、二人の交際が深くなればなる程、明智の胸から恋らしい心持が薄れて行くのが感じられた。彼は妙子と友達以上の関係へ進んでいないのを、寧ろ喜びさえした。

それは、非常に幽かではあったが、妙子の性質に、何かしらしっくりしないものがあったせいもある。だが、もっと大きな原因は、賊の娘の文代の出現であった。悪人の父とは似てもつかぬ美しい顔、美しい心、燃える様な純情。いつかの夜、玉村二郎に述懐したのでも分る様に、明智は賊の娘を恋し始めていた。