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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
明智が「開化アパート」に移ったことは、とっくに賊の方に知れていて、自然文代の耳にもは入ったのだ。
又、先日来の大捜索に、この怪汽艇がどうして其筋の目をのがれたかと云えば、外部をすっかり塗り変えて、真面目な貨物船と見せかけていた上、多くは港外の海上をあちこちして、同じ場所に半日とは碇泊しなかったからである。
「あたし、それを聞きましたのは、夕方の五時頃でしたが、父の部下の一人をだまして、戸をあけさせるのに、つい今しがたまでかかったのです。それは苦労を致しましたわ。で、もうこんなにおそくては、あとの祭りかと思いましたけれど、一番恐ろしいことは、まだ済んでいないかも知れぬと、それを頼みに先生のお力を拝借に伺ったのです。なんぼ父親のすることでも、四人もの命が奪われるのを、黙って見ている訳には行きません」
「一番恐ろしいことと云うのは?」
明智が尋ねると、文代は物云う暇も惜し相に、早口に答えた。
「その穴蔵を抜け出すには、骸骨の置いてあった、煉瓦の破れた所から、土を掘って地上へ出る外はありません。四人の方はきっとその方法をお選びなさるに違いありません。ところが、それは父の思う壺なのです。