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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

「オイ、一郎も二郎も妙子も、しっかりするのだ。わしらは、どうしてでも、この穴蔵を抜け出さなければならぬ。今も考えて見たのだが、それには、たった一つの方法がある。骸骨のとじこめられていた、洞穴の土を掘って、地面へ抜け出すのだ。大して深い筈はないのだから、皆が力を合わせたら、出られぬということはない」

「アア、僕も今それを考えていた所です。焼け残った椅子の脚で、土を掘ればいい」

一郎が応じた。二郎とても異存はない。

そこで大切な二本目のマッチがともされ、妙子を除く三人の男が、てんでに椅子の脚を持って洞穴に集った。

それから半時間程の間、闇の中に穴掘りが続けられた。寒中にも拘らず、一同汗びっしょりになって、滅多無性に働いた甲斐あって、思ったよりも仕事がはかどった。

「もう一息だ。何だか天井が柔くなって来たのを見ると、もうすぐ地面だぞ」

一同一層元気を出して働く内に、ふと気がつくと、天井からポトリポトリ何かの雫が落ち始めた。

変だなと思う間もなく、雫は雨となって降り注ぎ、一同アッと云って飛びのいた時には、泥まじりの滝津瀬と変じて、夥しい水が、ドッとばかり、穴蔵へと落ち込んで来た。