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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
三人は、元の地下室の、洞穴から一番遠い片隅に避難して、もうやむかと耳をすましていると、やむどころか、滝の音は益々高くなるばかりだ。
室一杯に、轟々と波うつ水は、やがて、足を浸し、瞬く内に膝頭へと昇って来る、その早さ。
「二郎、マッチ、マッチ」
父の声に、二郎は最後のマッチを点じて、室内を眺めた。
洞穴の滝は同じ勢で落ちている。室全体が波立つプールだ。
「オヤ、妙子はどうしたのだ」
気がつくと、妹の姿が見えぬ。水に溺れたのかと、マッチを振って、あちこち見廻す内に、悲しや軸木が燃え尽した。しかも、水は刻々に膝を没し、已に腰に及ばんとしている。妙子を探している暇はない。
この調子で、滝が止まらなかったら、間もなく、水面は腹から胸、胸から頸と這い上って、遂には全身を隠してしまうだろう。どこにはけ口もない密室だ。溺死の運命は免れぬ。
それにしても、この夥しい水は、一体どこから落ちて来るのだろう。
「アア、分った。わしらは賊の謀にかかったのだ。あの洞穴の上に大きな池を作って、穴を掘れば、必ずその底へ掘り当てる様に仕掛けてあったのだ」
玉村父子は、みじめなどぶ鼠の様に、罠にかかったのだ。