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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

「この船には蛇がいますね、賊が飼っていたのでしょうか」

それを聞くと、明智の顔色が、サッと変った。

「エ、何ですって。あなたはその蛇を、ごらんになったですか」

その声が、余り頓狂だったので、今度は警部の方で、びっくりした。

「見ました。小さいけれど、何だか毒蛇みたいな、いやな恰好をしていました」

「どこで? どこで見たのです」

「アア、そうそう。さっき、この部屋から這い出して来るところを見たのですよ。だが、あなたは、なぜそんなにびっくりなさるのです」

「僕は幻を見たのだと思っていました。だが、あなたの目にも映ったとすると、幻ではない。一体そいつはどちらへ行ったのです」

警部が、船室の外を曲って見えなくなった由を答えると、明智はセカセカとその方へ歩いて行って、隅々を探し廻ったが、あの蛇が今時分までその辺にいる筈はない。

彼は空しく引返して来て、彼らしくもない恐怖の表情を浮べながら、妙なことを云い出した。

「奥村源造の死にざまは、さっきもお話した通り、目も当てられぬ無残なものでした。あいつは恐ろしい執念に我れと我が身を苦しめて、ゾッとする様な呪の言葉を叫びつづけながら、悶え死に死んでしまったのです。