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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
「多分もう息はありますまい。この戸を破りましょう」
庭に廻って窓から入ろうにも、鉄格子が邪魔をしているので、火急の場合、その扉を打破る外に方法はなかった。
二郎は廊下を走って、書生を起し、斧を持って来させ、それで扉の鏡板を乱打した。
騒ぎに家中の召使達が(婆やと女中二人)駈けつけて来た。
頑丈な扉であったが、斧の乱撃には耐えず、メリメリと音がして、上部の鏡板が、大部分破れ落ちてしまった。
二郎と、巡査と、召使と都合六つの首が、その破れ目にかたまった。だが、彼等は何も見なかった。見る隙がなかった。恐ろしい勢で顔にぶつかって来る、大きな真赤な何かの塊りを意識して、ハッと飛びしさって、道を開いたからである。
それは一匹の真赤な猫であった。いや真赤な猫なんてある筈はない。実は福田氏が飼っている、純白の雄猫なのだが、それが全身に血潮をあびて、物凄い赤猫と化けてしまったのだ。
不気味な動物は、扉の破目から廊下に飛出すと、二三度ブルッと血震いをして(その度毎に赤インキの様な鮮血が、壁の腰板に生々しくはねかかった)人々に向って、恐ろしい形相で、真赤な背中をムクムクと高くした。