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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

明智は不良青年という年ではないし、妙子さんも、僅か数日の知合いに心を許す程あばずれではなかった。それに、ボートには、いつも二人の間に、かの進一少年が乗っていたのだから。彼等はただ不思議に気の合ったお友達でしかなかったのだ。

とは云え、正直なところ、妙子さんの心は知らず、少くも明智の方では、この若く美しく聡明な娘さんに、友達以上の懐しさを感じてい、それが日一日と深くなって行くのをどうすることも出来ない状態であった。

「オイオイ、しっかりしろ。お前は何を甘い夢を見ているのだ。年を考えて見るがいい、お前はもう四十に近い中年者ではないか。それに妙子さんは由緒正しい大資産家の愛嬢だ。お前の様な素寒貧の浪人者に、どう手が届くものか。サア、早く今の内に、あの人の側から遠ざかってしまうがいい」

明智は眠られぬベッドの中で、幾度も自分を叱った。そして、明日こそは出発しようと決心するのだが、朝になると、つい立ちそびれてしまうのが常であった。

だが、この問題は妙子さんのお父さんが、解決してくれた。彼は娘の滞在が長引くのを心配して、ある日東京から電話をかけて、早く帰る様にと娘に云いつけた。