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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
わしが物をいっても返事をするのもいやそうにして、そっぽを向いてしまう。どうかして、少し気を引き立ててやりたいものだが」
そんなことを考えていた時、岩瀬氏はふと、きょうでき上がってきた、応接室の洋家具のことを思い出した。
「ウン、そうだ。あれを見せたら、きっと喜ぶにちがいないて」
洋家具というのは、贅沢な椅子のセットで、一と月ばかり前それを注文する時、椅子に張る織物を、早苗さんが選定したのであった。
岩瀬氏はこの思いつきに元気づいて、さっそく奥の早苗さんの居間へやって行った。
「早苗、お前の好みで注文した椅子が、きょうできてきたんだよ。もう応接間にすえつけてある。一度見にきてごらん。思ったよりも立派な出来栄えだったよ」
ふすまをあけて、部屋をのぞきこみながら声をかけると、机にもたれていた早苗さんが、ビクッとしたように振り向いたが、すぐまたうなだれてしまって、
「そうですか、でも、あたし今……」
と、いっこうに気乗りのしない返事だ。
「そんなあいそうのない返事をするものじゃない。まあいいからきてごらんなさい。婆や、ちょっと早苗を借りて行きますよ」
岩瀬氏は、隣室の婆やにそうことわって、進まぬ早苗さんの手を取るようにして、つれ出して行った。