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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
婆やのつぎの明智探偵の部屋は、あけ放ったままからっぽになっていた。彼はやむを得ない所用があって、午前から外出したまま、まだ帰らないのだ。彼が出かける時、岩瀬氏の在宅をたしかめ、召使いたちにも、早苗さんから眼をはなさぬよう、くどく注意を与えて行ったことはいうまでもない。
やがて、早苗さんはお父さんのあとにしたがって、広い応接間にはいった。
「どうだね、少し派手すぎるくらいだったね」
岩瀬氏は言いながら、その新らしい椅子の一つへ腰をおろした。
丸テーブルをかこんで、ソファ、アームチェア、婦人用のもたれのない椅子、木製のもたれの小型の椅子など、つごう七脚のセットが、はでやかに並んでいた。
「まあ、きれいですこと……」
無口の早苗さんがやっと物を言った。いかにもその椅子が気に入ったらしい。彼女は長椅子に腰をかけてみた。
「少し固いようですわ」
何かしら普通の長椅子とは、掛け心地が違うような感じがした。
「そりゃ、こしらえたてには、少し固いものなんだよ。そのうちになれて柔らかみが出てくるだろう」
もしその時、岩瀬氏も早苗さんと並んで、その長椅子に腰かけてみたならば、彼とても不審をいだかないではいられなかったにちがいない。