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あさくさふどき

浅草風土記

久保田 万太郎

線上閱讀久保田 万太郎《浅草風土記(あさくさふどき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 162,294 字 · 318 頁

青空文庫

四

というその附近にあった鰻屋のことをいわれたのだろう。八幡さまのまえ、今戸橋のほうへややよったところにある古い鰻屋だった。ごくの小さな栄えない店だったが、門に柳を植えたけしきが妙に人目を惹いて「今戸のあの鰻屋……」といえば「あの、ああ、柳のある……」と、そのあたりを知るほどのものだったら誰でもすぐそういった。――以前は知らず、わたしが知ってからは出前だけの、上りはしないと聞くうちながら、岡鬼太郎氏の戯曲「女魔術師」の二幕目「今戸河岸鰻屋清川の場」とあるのをみたときも、矢っ張わたしはこのうちを思い起した。

一ト言にして古風な人情。――古風な人情をもった町だった。しかく、しずかな、哀しい、つつましい往来だった。……

四

が、それも夢、いまはそこも「隅田公園」の敷地の一部の、河岸を縁取っていた家々はすべて取払われた。勿論、沢村宗十郎君の文化住宅も、救命艇庫も、喜多川も、あとなくそこにすがたを消して、みるかぎりの水にのぞんだひろっぱ、植込まれた雑木のかげに、一つ二つ、一文凧のあがっているのもむしろ長閑な感じだった。――と一しょに、慶養寺の横を斜に、山谷のほうへと広い道路が出来、八幡さまの並びの、嘗てその門々に葵だのコスモスだの孔雀草だのを咲かせていた小さな家つづきのあとに、ものものしい構えの、「寮」