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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

むしろ尊氏どのの道こそ終生如何あろうかと惜しまれる。……おう」

と、不意に石から立って、

「おもわず時を過ごしたぞ。介どの。これから一人で麓へ出てはあぶない。正成が連れて進ぜよう。こう参れ」

「あっ。……もうしばし」

介は、あわてて、正成へ追いすがった。だが、振向きもせぬ彼だった。のみならず少し先には、とうに山を降りていたはずの蔦王と忍ノ大蔵が、なお用心ぶかく、物蔭からこなたをじっと睨んでいた。

峰づたいに、南へ越えれば紀伊の人里へ、東へ行けば、大和へ出られよう。――介はここで正成と別れ去るべきか、なお正成について、下赤坂へ降りるべきか。さんざん迷った。

「ふしぎなお人だ」

彼には、ただただ、解らない人の、一語につきる。

本心、尊氏を敵とみるならば、その尊氏の股肱であり密使でもある自分を、どうしてこう寛大にして帰すのか。

生かして返さぬまでも、究竟なとりことして、これを責め折檻のすえ、敵状を知る手懸りとするなどは、武門の常識、慣わしといってよい。

「……それなのに?」

介は、疑いながらも、その怪しみに引かれて、ついつい犬の子の如く、正成のあとについて行った。