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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁

青空文庫

また。

――刻々と東上中の、足利勢の情報もあつめていた。

すでにきのうあたり、海上の敵数千ぞうは、室ノ津をうずめ、陸上軍も、福山、三石を抜いて、破竹、播磨ざかいへ迫ッて来つつあるという。

宵の頃だった。

かねて情報集めに放っておいた、八木弥太郎法達の部下が、摂津の昆陽野(伊丹)から馬をとばして来て、

「新田どのの軍勢は、白旗城のかこみを捨て、加古川の陣も抛って、ぞくぞく兵庫へひきあげ中のよし。何せい、諸所の崩れ、尋常ではありません」

と、正成へ報じていた。

ここへ入るほどな戦況なら宮中へもすでに聞えているだろう。またそれは人心にも映って、この晩はムシ暑い蚊うなりもてつだい、洛中、寝ぐるしい夜を人々は送った。

しかし正成は、さして焦慮を抱いたふうでもない。――参内の二十一日の朝は、早くに物具を着け、さて、門を出るさいに、初めて甥の楠木弥四郎にたずねていた。

「昨夜じゅう、今か今かと待っていたが、住吉からは、何の連絡も来なかったな。――ついに切目の法橋の舟軍は、いまだに影を見せぬものか」

「住吉へは、助家殿(和田)が行っておりますことゆえ、もし熊野の水軍が、お味方の援けに、海上へ見えたとあれば、早馬をもって、すぐにも吉報を告げてまいりましょうが」