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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

と。

「さあ何と仰っしゃいますか分りませぬが」

家来は、そういって引っ込んだきり、いつまで顔も見せなかった。つまり取り合ってもくれぬものらしい。といって安富浄明は、主命、むなしく帰りもならず、いつか夕せまる方丈の庭などうろうろしていた。

するうちに、そこの障子の内で、すすり泣くような狂女の気配をふと耳にした。

浄明は、しめたと思い、そこの濡れ縁から障子の内へ。

「もし、ご息女……。いかがなされましたか」

そして、内の応えに、きき耳すまして屈まっていた。

他人の声が狂女にもわかったのか、すすり泣きはすぐやんで、サヤサヤと近づく衣摺れと共に。

「……たれじゃ」

「旅の僧でございます」

「旅の僧とは、どこの旅の僧かよ?」

「されば……」

浄明は、閊えた。

障子をへだてたままなのである。だから声は今泣いていた狂女にちがいない気はしたのだが、ことばには物狂いの様子もなく、また女性とも思われない。どこかりんとした響きさえあったので、彼は、自分が探題の家臣とはや内の人に覚られでもしたことかと、おもわず萎縮したのだった。

「されば、これは国々の会下をめぐり、近くは鳳儀山の大智和尚にも参じていた旅の雲水でござりまする」