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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
夜叉と男
「ははは」と、高氏は自分の声を遠くに聞くような自嘲で言った。
「よいも悪いもあるまい、高氏は負けたのだ。なにしろ、ひどい執念の恋がたきだった。ざまはない!」
「いや、こちらもだ」
と、道誉は大いにあわてたらしい色をかくして、大容に、ふてぶてしく、笑って退けた。
「御同様に、ざまはない。だが女嫌いの御辺が持つより、やはり花は風流なあるじの室がいいかもしれぬ。花も倖せにちがいない」
そのとき、武者の早い足音がここへ近づいていた。それを知ってか、茶堂の水屋にひそんでいた女の影は、さっと、野の生き物みたいに裏の疎林のうちへ消えて行った。
夜叉と男
西曲輪の客殿は、“梅の丸”とよばれている。庭前庭後、すべて梅園だからであった。
客殿に客のある夜は、吊り燈籠に灯が入る――こよいは珠を連ねたような灯があった。――しかし廊に人影の往き来もなく、灯のあるため、かえって、ふだんの夜より寂しくさえ思われた。
するといま。――遠い疎林の方から、飛鳥のような迅さの物が大庭を過ぎって、客殿の北端れにある水仕たちの下屋の軒下へさっと隠れこんだようだった。けれどそのままなんの変ったこともなく、どこかで寝ぼけ鶯が一ト声啼いたのと、そこの水屋戸がガタと鳴って、山の冷気がすうと、内へ通った気がしたにすぎなかった。