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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
一穂の灯
したが、あとの策に当惑するのだ」
「何の取り越し苦労を。これより能登も甲ノ尾へ御同道いたしましょう。諸事の段取りは、手前の胸におまかせおきを」
二人は船を出た。出るとすぐ大満寺山の雲が異様に目についた。
一穂の灯
小雨であった。島の二月初めはまだ寒くて、春雨とも言いがたい。
そのかみの国分寺の址はおもかげもなく荒れ廃れていた。その一部は帝の配所として改修されてはあるものの、雨の日などは、元の金堂の内陣も、雨漏りの音が不気味にひびいて、廊は傘をささねばあるけないばかりであった。
そこをいま、裳を片手からげに、抜けるほど白い花顔の人が、素足で静かにどこかへ消えて行った。あたりの蕭条とほのぐらい伽藍のこと、なにかそれは妖しの物と見えなくもない対照だった。
「千種どの」
女は、はるか大屋根の端の廊をまがって、一房のうちへ、こう呼んでいた。
帝の寵妃、三位ノ廉子なのである。すぐ内からは、侍者の千種忠顕が、侍者ノ間から答えて出て来た。しかしその後ろに、商人風な男が、こちらへ背を向けたまま、室内で、もう一名の行房とはなしこんでいるのをチラと見、
「あれは?」
と、彼女は要心ぶかく、すぐ口をつぐんだ。