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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

と言ふに、我が額の髪を切つて妻に与へ、妻の髪をば、わが守り袋に入れ、犬射ノ馬場にて死ぬ日まで肌身に持つて候ひし……」

見るまにその形相は怒りにみなぎり、またハラハラと涙をながして、言いつづけた。

「ただその日、目ざす敵をも討たで、死にたるこそは、くちをしけれ……

また我れ、息ノ浜を打ち出でし時、夜更くるまで酒を飲み、水の欲しく候ひしを、水をも呑まで打ツて出で、炎の中に、斬り死にして候ひし……

水が欲しう候ふ。旅僧、水を給び候へ。水を……」

彼女は、求めながら庭へ降りて来たが、すぐバタと仆れてしまった。

しかも、彼女はなお、身をもたげて。

「水を、水を……

旅僧、水が欲しう候ふ……

水を給び候へ」

と、狂女の本相そのものをあらわして叫ぶので、安富浄明は何も思わず、うしろの井戸から小桶に水を汲んで来て、大あわてに彼女の顔の前へ持って行った。

すると、ふるえつくように、彼女は二タくち三くち……四くち……さも美味しそうに飲みつづけた。ほつれ毛も唇もしずくにした。そしてこんどは、

「我れ頼隆は、日ごろ上戸にて候ふ……

酒飲み候はん……

おん僧も飲み候へ」

と、またも狂いやまないので、浄明はもう身の立場もわすれ、