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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

それやこれで高氏は眠っていない。おそらく彼は午睡中か。柳堂の内といい鶯の声――余りに静かな陽ざしである。

するといま柳の間を縫って、直義の姿が池むこうの陣幕のほうへ歩いて行くのがみえた。堂をめぐって、幕舎は幾つもあるが、そこの一つの蔭には、艶に粧った子づれの女性と、平服の侍が一人その側にひかえていた。

「右馬」

と、直義は、それへ言った。

「まだお目ざめにならんようだ。兄者ときてはどんなときでも、よう眠るおひとだからな。……ま、もすこし待つがいい」

「は。いや幾刻でも」

男は、一色右馬介だった。うしろを見て。

「若ぎみ。さぞ、ごたいくつでございましょうな」

不知哉丸は答えもせず、さっきからもう、つまらなくて堪らない顔つきなのだ。そばのひとの袂を引っぱッて俄にせがんだ。

「藤夜叉、あの大橋を渡ってみたい。行こうよ。町へ行こうよ」

「ま、おききわけのない」

藤夜叉は眼で叱った。

「一色村をお出になるとき、あんなにようお話し申しておいたでしょう。そしてようおわかりだったではございませぬか。お父ぎみと初めての御対面をなさるのです。もう村の童みたいな駄々を仰っしゃってはいけません」