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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

それとまた、道誉と闘って飲んだ宵からの大酒もむかむか胃の腑に手つだって、高氏は、いつにないもがきを寝姿に描くのであった。

すると、そのうちに。とつぜん、彼は夜の具を刎ねのけた。

そして陣座羽織をぬぎ、えぼしもそこにおいて、ばっと、茶堂の水屋口からおもての闇へ出て行った。すぐ、それと気がついたものとみえ、つづいて宿直の師直が、

「……殿っ」

と、どこかで呼びかけると、高氏は一ト声、

「来るな!」

と、叱るように後ろへ言った。そして疎林のそばのささ流れへかがみ込むと、口のなかへ指を突ッこんで、がっと、宵からの酒を吐いていた。

来るな、といわれても、師直は寄って行って、おあるじの背をさすらずにいられない。

「……いかがなされました。……殿。……お薬でも持たせましょうか」

高氏は苦しそうであった。吐いたあとも、流れへ、かがんだままでいた。

からになった胃の腑に、すがすがしい落着きを持つと、高氏はやがて、顔を水面にひたして、その水しずくを、横に拭きこすりながら身を起した。そして、口にもふくんでいた水を、こころよげに吐きすてて、

「師直か」と、下を見すえ「――大事はない」