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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

「ようわかった」

帝はそこで。

「もひとつ、たずねるが、その海賊岩松経家が、これへ使いをよこした動機は何か。ただ宮方への味方を誓ってまいっただけのことか」

「いえ」

と、吉致が直答した。

「それだけではございませぬ。……じつは去年いらいの鎌倉の動員にて、上野の新田義貞殿も出兵を命ぜられ、金剛、吉野の攻略に参加しておりまする」

「む……。なるほど」

「その途次、兄経家も阿波を出て、ひそかに義貞殿と某所におちあい、ふかくお諜し合ってのすえ、初めて、てまえにお使い役が下ったような次第でございまする」

一穂の灯は、いつか有明けめいている。

帝はすでに御寝だった。

しかし岩松吉致は、じきじきの拝謁をえたうえに、望みの綸旨もたまわって、こんどの密使の役目は十二分といっていいほどすませていた。

で、あとのひそひそ声は、

「気をつけてまいれよ」

「綸旨を人手に奪われるな」

侍者のふたりの注意やら、別れのことばなどだった。

ほどなく。行宮の北の藪垣を躍りこえて、まだ暗い海の方へむかって、ひた走りに消え去った人影がある。吉致だったのはいうまでもない。

行宮のうちは、それからが眠りの夜だった。