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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

「お案じなされますな」

彼女はもういつも能登が見ている彼女と変りがなかった。

「都には、現朝廷(光厳帝)にお仕えしている肉親たちがあまたおります。もし私が心変りして、鎌倉どのの密命を裏切れば、その者たちの破滅ではござりませぬか」

「む。うむ」

いかにもと、能登はなんどもその猪首でうなずきながら。

「この能登も、ここで一つの功を立てれば、いずれは地方(本土)に二郡や半国の領地は持ちえて、都に一ト屋敷は構えるつもり……。小宰相どの、能登はあなたを、ほんとは、みかどの側へなどはやりたくないのだ。後日、都の宿の妻として眺めたい。忘れないでいて欲しいな」

思い入れたっぷりな言い方だった。それを言いたいための長尻であったかもしれない。さすがに口に出してはてれたのだろう。のっし、のっし、すぐ彼方へ行ってしまった。

「身のほども知らない男」

さげすみと、身ぶるいを抱いて、小宰相は簾に籠った。そして夕のくるのを待ちわびた。

まだ陽は高かったので、それからの半日あまりを彼女は長い想いにたえなかった。

六波羅の獄いらい、おそろしい心をかくして、帝をあざむきつづけて来たが、ほかの二人の妃にたいする反抗と憎しみなども手つだって、さして罪とはそれを思わずにいた彼女だったが、ようやくこのごろは、そうでない。