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めいじげきだん ランプのもとにて

明治劇談 ランプの下にて

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《明治劇談 ランプの下にて(めいじげきだん ランプのもとにて)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 頁

青空文庫

浄瑠璃の遍昭もよくなかった。

この日、わたしは父と一緒に楽屋へ行って、はじめて福地桜痴居士に逢った。わたしが団十郎の部屋へはいると、そこには小紋の着物に黒ちりめんの羽織をかさねた五十前後の紳士が坐っているのを見た。団十郎に紹介されて、わたしはその紳士の前に頭をさげた。団十郎は単に“先生”といってその人を紹介したのであるが、それが桜痴居士であることを私はすぐに覚った。一応の挨拶が済むと、桜痴居士はわたしに向かってしずかに言った。「君は芝居をかくつもりだというじゃないか。そうですか。」「はい。」とわたしは再び頭をさげると、桜痴居士は微笑みながら重ねて言った。「まだ若いね。やるつもりならしっかり勉強したまえ。君は外国語が出来るかね、英語ができるかね。」特に英語と指定されたので、わたしも少し力を得て、「はい。英語ならば出来ます。」と大胆に答えると、「それは宜しい。なんでも勉強しなければいけないよ。ちっと僕の家へも来たまえ。」と初対面から至極く打解けた調子であった。新聞の論説や小説の『もしや草紙』をとおして、わたしが窃かに想像していた桜痴居士その人とは、その風も態度もよほど違っていて、初対面から親しみやすい人のように感じられたのを、わたしはなんとなく嬉しく思った。