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しほんたいへいき
私本太平記(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(七)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 頁
……どうも日ごろから、あやしき色のみえていた両名。みかどの下山と共に、敵へ内通に出たものでしょう。とすれば、帝の御脱出も、ただの風説ではありますまい」
この貞満は、坂東武者の典型ともいえるような、一徹短慮な男だった。で、猶予はならずと言い、「――まずは、拙者が、見てまいりましょう」と、義貞の営から駈け出して行ったが、その顔色はもう恐ろしい憤りになすられていた。
行宮の延暦寺根本中堂のうちでは、かねてからのおしたくだったが、今暁はもう暗いうちからの物騒めきで、おめしになる鳳輦も、きざはしの下の轅台にすえられ、みかどの出御を、待つばかりのていだった。
やがて、しいっと、お出ましを告げる声が奥から流れつたわってきた。――と、洞のような中堂の燈明をうしろに、背がお高いのですぐそれとわかるみかどの模糊たる影が、生ける金剛像のように、ずしずしと歩んで来られた。そして、天やや明るい廊の大床のさきに、そのお姿を立たせられた。
すると。
このとき、たれとはなく、すすり泣いた。はじめは、数名の嗚咽だったが、しだいに、廊の左右から階の下にまで、敷波にヒレ伏していた公卿や舎人にいたるまでの、すべての人影の咽び声になっていた。