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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

それぞれの船が夜食にかかる炊煙だった。そしてこのときだけは、供御のために、妃たちもみな艫へ出て、水仕や調理につとめ合っていたが、やがてのこと、

「やっ、あの無数の火は?」

と突然、まわりの速舟が、こぞって猛り起っていた。

「隠岐ノ判官の船手にちがいないぞ」

「すわ、追手船だ」

「油断すな」

船上の人影は、すぐ逃げ支度のため、帆綱や舵へ跳びついていた。

帆のほか、両舷の大櫓もある。水夫たちは、えいや声を嗄らした。風がない。たよるのは櫓であった。

ときどき船は大きく揺れ傾いた。七そうの速舟との間に、行き場を阻まれたうねりが白いしぶきを揚げるのだった。

「大丈夫!」

速舟の一そうからは、岩松吉致が親船を仰いで、何度となくいっていた。

「こうとは、あらかじめ分っていたこと。岩松の党があるかぎり、お案じにはおよびません!」

しかし、親船の艫にいる妃たちには、彼の声も救いには思えない。――いまにも船戦か、と顫いている姿だった。

初め、追手船が迫ったと知ったせつな、小宰相はすぐ帝のいる船底の口へ逃げようとしかけた。けれど、立ち阻んだ廉子の眼に射られて、ついその場に恟んでしまったのである。