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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

したが、御諚はとつぜんな儀、事は何せい、ゆゆしきお迎えでもありますれば多少の遅滞は無理ならずとも思われまする」

陽が映した。白い海気に滲んだ橙色の旭光を船底から上に仰ぐと、後醍醐は、待ちきれぬもののように、乾魚俵の間からお身を起した。

「廉子。座を移せ、上にいて使いの吉左右を待つとしよう」

彼女と権大ノ局とは、あわてて仮のむしろの御座を、艫の一端にしつらえた。帝はそれへ胡坐しながら、ふと、ふたりの姿のほかを見まわして、ご不審そうに呟いた。

「……小宰相が見えんの。彼女はどうしたな。ほかの寝小屋の内にでも臥せっておるのか」

「いいえ」

すぐ廉子がお答えを引きとった。なんのわだかまりもない滑らかな声である。

「いずれそのことは、目前のおん大事もすんでから、み気色のお麗しい日に、お聞え上げいたしましょう。今は余りにどうも……」

「むむ」

帝のお心も、ついそこになく、

「そうだ。それどころでない」

と、霞のうえの大山の紫へ、そのお眸を真向きに直した。

名和長年

五十三、四か。まだ老人というほどな彼ではない。

骨ぼそだが四肢は長く、人には引けない蟇目(強弓)をよく引くほどな鍛えもある。