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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

事は猶予をゆるしません。もしお迷いならば、帝の御船を移して他の宮方へおん頼みあるべしとの内議もある。――ご即答をえたい」

と、語をむすんだ。

長年はすぐ答えた。

「かしこまりました。伝来の弓矢も、かかる日のお頼みに会うは、面目というものです」

「義心お変りないか」

「否やはございません。――なれどこの地の近郷にも、幕府方の武豪輩があまた虎視を光らしておりまする」

「それや、さもあろう」

「かつは、この名和ノ荘といい、名和の館と申せ、平野の小丘です。楯、櫓を布くによい地相ではありませぬ。――しかしまだ、みかどがお船にあるこそ良けれ、日暮れを待って、近くの加茂の村社へお迎えいたし、そこでお身支度のうえ、ここより東二里余の船上山へ安んじ奉りたいとぞんじまする」

「船上山へ」

「そこも大山のうちです。鳥ヶ峰、矢筈山、かぶと岳などにかこまれて、山上はひろく、長期の行宮にも、敵のふせぎにも、万全と申せましょう」

「ではその由を」

と、悪四郎をかえりみて。

「悪四郎、めでたいな。事は成就とみえた。沖のお船でも、みな首を長うしておられるに相違ない。いざ、もどろう」

とばかり、すぐ立った。