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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
そんな不覚者を、首将といただいて、彼を助けようとするような人のいい地方武者は一人もいない。みな「おれこそは」の気ぐみなのだ。清高の失脚などは意に介するところでない。わが手に後醍醐を捕って、賞にあずからんとする方がみな急だった。
ために船上山攻めは、おそろしく急速に、また気負い込んでくり返されたが、そのほとんどが惨敗だった。個々、てんやわんやの戦列や突撃が因をなしたのはいうまでもない。
「隠岐殿っ。……能登ノ介と申す者が、山上から逃げ落ちて来た。島から捕われて行ったあの能登ではあるまいか」
彼が、こう聞いたのは、田所種直や稲井瀬ノ五郎や入道永観らと共に、船上山へむかって、野陣を布いていた陣場のうちだった。
「えっ。能登が生きて?」
清高は、半信半疑に、
「能登といえば、わが叔父御にちがいありません。どこへ来ていますか」
仮屋としている農家の土倉から出てみると、なるほど、見知らぬ一人の武士と姿を並べて、茫然と変りはてた能登ノ介が、眼もうつろに佇んでいた。
季節は三月に入っている。山襞の深いところまで木々の芽ざしが色づいたり思わぬ花があったりする。おびただしい武器や兵糧を持ち込むさえ造化への冒涜であるような初々しいこの自然環境も、血まなこな戦争目的の下には、どんな大木の伐採だろうが土ケズリだろうが惜しみなくされて