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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁
そのうちにシトシトと晩春の雨が降りけむる夜などには、たれいうとなく、青い陰火が燃えるといったり、断末の声がするなどという噂も立ち、いつかそのあたりへ立ち寄る者はなくなっていた。
すると四月四日のこと。
ひとりは年のころ四十左右、連れはまだ十七、八かとみえる初々しい女性が、いずれも被衣して忍びやかにそこの梟首台の前へ来てじっと果てなくたたずんでいるさまだった。そして変り果てたさらし首の一つ一つへ眸をうつしてゆきながら、口に名号をとなえ、指に水晶の数珠をツマぐっているかと見えたが、やがて、寂阿入道菊池武時の首と隣して、死すとも父子一座として寄り添っているかのような、その子三郎頼隆にまぎれない若い首級へ、若い方の女性の視線がヒタと釘づけになったとおもうと、
「……オオ」
水晶の数珠は、はらと、その足もとに落ち、全身をきざみ上げる悲泣に被衣は脱げて地にまみれた。
その様子に、ふと、異常を感じたのであろう。連れの年上の婦人もまた、
「あ……?」
と、かろい叫びをあげ、
「嫁女っ」
走り寄って、彼女の嫋かな双肩を抱きしめつつ、その耳へ口を寄せて、いくたびとなくおなじことを言っていた。