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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(四)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 229,324 字 · 458 頁

青空文庫

ほどなく。久子の声で、

「お帰りです」

という触れがそこで聞えた。

爺をはじめ、人々は、

「もうか?」

と、あっけなく思ったほどらしい。遠くの陣幕の袖から、わらわらとそこへ出て来た。

草履をはいて、ついそこらまで、良人を見送るべく、外へついて来た久子のまぶたには、はっきり泣いたあとがみえた。意識的に人々は眼をそらして、つい正成の顔へも、かたどおりな礼儀しかなしえなかった。

「はや、御陣座へおもどりでございますか。せっかくお久しぶりでしたのに」

「いや、短くはない」

と、薄く笑って。

「今生の思いをとげた気がしたよ。妻子の顔を見るなどは、ここでは、ぜいたくなことだった。皆には何かすまないのう」

「めっそうもない。正直、われらまでがうれしいことでございました。わけて和子さまたちのおよろこびを見るにつけ」

「多聞、ここへ来い」

と、正成はもいちど、多聞丸と三郎丸を、両脇にかかえ寄せて。

「多聞は幾ツになったかの」

「十」

仰向いていうその頭へ父の手を与えながら、じっと愛らしい顔を見ていると、多聞の瞼もじいんと紅く応えていた。

「いい子になれよ。弟を可愛がってやるんだぞ」